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名古屋地方裁判所 平成8年(わ)290号 判決 1996年5月21日

裁判所書記官

田中百百代

被告人(法人)

法人の名称

吉村穀粉株式会社

本店所在地

名古屋市中川区伏屋二丁目一五〇一番地

代表者代表取締役

吉村華一こと許華一

被告人

氏名

吉村華一こと許華一

年齢

一九三六年一二月五日生

職業

会社役員

国籍

韓国

住居

名古屋市中川区伏屋二丁目一五〇一番地

検察官

吉川信久

(求刑 被告人吉村穀粉株式会社に対し、罰金一〇〇〇万円。

被告人吉村華一こと許華一に対し、懲役一〇月。)

弁護人

黒田修一(被告人両名。私選。)

主文

被告人吉村穀粉株式会社を罰金八〇〇万円に、被告人許華一を懲役一〇月にそれぞれ処する。

被告人許華一に対し、この裁判の確定した日から三年間右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人吉村穀粉株式会社は、肩書地に本店を置き、穀粉の販売、菓子の製造販売等を目的とする資本金一〇〇〇万円(平成五年八月一九日までは五〇〇万円)の株式会社であり、被告人吉村華一こと許華一は、被告人会社の代表取締役として同会社の業務全般を統括していたものであるが、被告人は、被告人会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、売り上げの一部を除外する等の不正な方法により所得の一部を秘匿した上、

第一  平成二年七月一日から同三年六月三〇日までの事業年度における被告人会社の実際所得金額が七九九三万〇八三一円であったにもかかわらず、同三年八月六日、名古屋市中川区尾頭橋一丁目七番一九号所在の所轄中川税務署において、同税務署長に対し、所得金額が四二四〇万〇二四一円であり、これに対する法人税額が一三八八万六一〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により被告人会社の右事業年度における正規の法人税額二七七七万四一〇〇円と右申告税額との差額一三八八万八〇〇〇円を免れ、

第二  平成三年七月一日から同四年六月三〇日までの事業年度における被告人会社の実際所得金額が一億三〇四三万四二四九円であったにもかかわらず、同四年八月一二日、前記中川税務署において、同税務署長に対し、所得金額が七九七四万五五五〇円であり、これに対する法人税額が二八二四万七二〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により被告人会社の右事業年度における正規の法人税額四六九九万七九〇〇円と右申告税額との差額一八七五万〇七〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示各事実について、被告人の当公判廷における供述のほか、記録中の証拠等関係カード(検察官請求分)に記載されている次の番号の各証拠

判示全事実について

甲三、五ないし八、一〇、一三ないし一六

乙二ないし八

判示第一の事実について

甲一、四、九

判示第二の事実について

甲二、一一、一二

(法令の適用)

(本項で適用する刑法はいずれも平成七年法律第九一号附則二条一項本文により同法による改正前の刑法である。以下「改正前刑法」と表記する。)

被告人の判示各所為は、いずれも法人税法一五九条一項(被告人会社については、さらに同法一六四条一項)に該当するところ、被告人会社については情状により同法一五九条二項を適用し、被告人については所定刑中懲役刑を選択することとし、以上は改正前刑法四五条前段の併合罪であるから、被告人会社については同法四八条二項により各罪所定の罰金の合算額の範囲内で罰金八〇〇万円に、被告人については同法四七条本文、一〇条により犯情が重い判示第二の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で懲役一〇月にそれぞれ処し、情状により被告人に対し同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予することとする。

(量刑の理由)

本件は、被告人が、主食用の米として販売することが認められていない他用途利用米に破砕の割合を低くする特別加工を施し、主食用の米として販売して利益を得るという違法行為を継続し、特別加工賃を簿外で支払うため等の理由から、売り上げの一部を現金で受領し帳簿から除外するという方法で、法人税をほ脱した事案であるが、ほ脱の手段・方法は計画的で、遵法精神、納税意識の欠如は明らかである。また、ほ脱税額も約三二六三万円にのぼり、その刑事責任は決して軽くない。

しかし、被告人には前科前歴がなく、事業経営に励んできたこと、修正申告をした上、本税・重加算税等を全額納税していること、自己の行為を反省し、帳簿処理の改善に努力していること等被告人のために酌むべき事情もある。

かかる諸事情を総合考慮したうえ、被告人には特に懲役刑の執行を猶予し社会内更生の機会を与えるのが相当と認め、主文の刑を量定した。

(裁判官 長倉哲夫)

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